東京地方裁判所 昭和44年(ワ)7767号 判決 1971年8月10日
理由
破産会社が、昭和四二年五月一八日不渡手形を出し、同年九月一六日当裁判所において破産宣告を受け、右同日原告がその破産管財人に選任されたことは当事者間に争がなく、また、被告が、破産会社より本件(一)、(二)の手形の裏書譲渡を受け、本件(一)の手形につき振出人から額面全額の手形金の支払を受け、本件(二)の手形につき振出人から額面金額の一部である金一九〇万円の手形金の支払を受けていることも当事者間に争がない。
次に《証拠》を総合すると、破産会社は、乳製品、和洋菓子、壜罎詰類の販売を業とし、パチンコ等の遊技場を経営している被告に商品を納入していたこと、破産会社は、昭和四一年秋頃から経営困難に陥り、昭和四二年五月一八日には遂に不渡手形を出し倒産するに至つたこと、破産会社の代表者田山源太郎は、右倒産の同日不渡回避のための資金を作るため、売掛代金支払のため受領していた本件(一)、(二)の手形等の割引を受けようと二、三の銀行に当つて奔走したが、すべて断わられたこと、このため破産会社の倒産は免れることができないものとなつたので、田山源太郎は、被告とは以前から前記のような取引があるのみならず、融資を受けて色々と世話になつていたので、特別に被告に対しては、同人からの融資金の返済をしたいと考え、前期倒産と同日被告に本件(一)、(二)の手形を裏書譲渡したこと、従つて、右の譲渡行為は明らかに破産財団を減少し一般破産債権者を害するものであつて(なお、右の裏書譲渡が既存債務の代物弁済としてなされたか、それとも、既存債務の支払のためになされたかについては、当事者に争のあるところであるが、そのいずれであつても破産債権者を害するものであるとの前記結論に影響がないので、右の点についての判断は暫らく措くこととする)、破産会社は破産債権者を害することを知りながら、敢えて本件(一)、(二)の手形を被告に裏書譲渡したものであり、被告においてもまた必らずしも右の事実を知らなかつたわけではないことが認められ、これに反する《証拠》は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
従つて破産会社の前記本件(一)、(二)の手形の裏書譲渡行為は破産法第七二条第一号により否認を免れないところであり、これを理由に、被告に対し、同人が本件(一)、(二)の手形につき各振出人より支払を受けた前記手形金の合計金二、六七八、一〇〇円及びこれに対する訴状送達の翌日の昭和四四年七月二五日(この点は記録上明らかである)以降完済に至る迄年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当である。(省略)
よつて、原告の請求を認容する
(裁判官 真船孝允)